オオムラサキ

この時期になると、主にテレビのニュース番組の地域のコーナーや、新聞の地方面を中心に、国蝶オオムラサキの人工羽化に成功したとか、羽化させたオオムラサキの成虫を自然に返したとかいう話題が散見されるようになる。

国蝉や国蜂や国蜻蛉なんてものは聞いたことがない。どういう経緯で国蝶が制定されたのかは興味深いが、Google先生に聞いてもよく分からない。国蝶以外の国の生物といえば、

国花
サクラまたはキク。慣習による、および天皇家の紋章
国鳥
キジ。1947年、日本鳥学会が制定

といったところが有名か。徳川幕府が続いていれば、国花として (徳川家の紋章である) フタバアオイも用いられたかも知れない。

国蝶が制定されたのは、Wikipediaによれば、1957年。日本昆虫学会が制定したそうだ。その後高度成長などでオオムラサキの住む雑木林が失われていくとともに各地で保護の対象となっていった。

かつての保護運動は、雑木林の一部に、ないし隣接した場所に公園を整備し、あわせて保護記念館を作るというハコモノ行政の延長で、平気でその近辺にゴルフ場を作ったりしたような話もよく聞いたが、現在では里山 (≒雑木林) 保護の重要性も認識されているようだ。

関東周辺だと、中央線の各駅停車にのんびりと揺られて、たとえば日野春 [日本語ドメイン名に注意]で降りると、目の前に見える雑木林に多くのオオムラサキが生息していた (学生時代なので十数年前の話だが)。駅前にあった (今もあるのかな?) 古い食堂の裏手が崖 (谷) になっていて、ちょうど雑木林の上が見渡せた。よく観察していると、雑木林の上で占有行動 (縄張の監視行動) を取っているオオムラサキが見られた (これは隣の穴山 [日本語ドメイン名に注意]だったかも知れない)。もっとも遥か遠くなので面白くないといえば面白くないかも知れない。この付近はオオムラサキで町おこしをしていて、遊歩道などが整備されているので、運がよければもっと近くで観察できる。

オオムラサキの成虫は、クヌギなどの樹液をエサとする。同じものをエサにする昆虫はたくさんいて、たとえばカブトムシやクワガタやカナブンなどの類。こういうものが集まる樹の幹に、ゴマダラチョウなどの各種タテハチョウとともにいる。競争率が高いので、喧嘩をしつつ良い場所からカブトムシ、大型のクワガタ、…と体の大きい順に確保される。オオムラサキは、羽を広げた大きさも大きいが、胴体もデカく、力も強いようで、小型のクワガタ程度ならおしのけてしまうこともあるという。もっともカブトムシやクワガタは夜行性、オオムラサキは昼行性なので、昼間は主役級であることも多い。

ちなみによく見かける美しい青い色は、オスに特有のもので、メスは白黒で一回り大きい。

さて、オオムラサキの人工飼育自体は (新鮮なエノキの葉さえ供給できれば) 難しいものではない。冬にオオムラサキの生息する雑木林付近で、エノキの下の落葉を丹念にめくると、越冬中の幼虫が見付かる。落葉と同じ色をしていてわかりにくいが、1対の角が生えた特徴的なイモムシだ。これを落葉ごと拾って (地域によっては天然記念物に指定されていて捕獲が禁止されているので注意) 外気温に保っておくと、春に活動を再開する。脱皮して緑色に変身し、エノキの葉をもりもりと食べて蛹→成虫へと成長する。

幼虫の間は外敵から防いだり、逃げ出したりするのを防ぐために、目の細かい網でかこっておくとよい。たとえばエノキを鉢植えにして、拾った幼虫つき落葉を鉢の中にばらまいておいて、全体をすっぽりと覆う。羽化するには広い場所が必要なので、蛹になったら枝ごと切って移動させる。たとえば大き目の虫カゴの中にでも貼り付けておくとよいのではないか。

越冬中の幼虫を拾ってきた場合、半分くらいは途中で死んでしまったり寄生虫にやられていたりして羽化しないだろう。また、羽化する大半はオオムラサキの近縁のゴマダラチョウ。幼虫も成虫も同じものを食し、オオムラサキのいるところにはたいてい一緒に住んでいる (逆は真ならず。ゴマダラチョウの方が生息地が広く、一緒に住んでいる場合はたいてい個体数が多い)。選別して拾ってくることも可能ではあるが、慣れないと区別は難しい。よく背中の突起が4対あるのがオオムラサキ、3対なのがゴマダラチョウ、と説明されるが、実はゴマダラチョウにも4対あって、1対が小さい、というのが正確なところだったと思う。ゴマダラチョウの成虫は、オオムラサキをモノトーンにした感じの白黒で、裏の模様は全然違うし、大きさもだいぶ小さいのですぐに分かる。

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このページは、みが2007年7月 9日 21:22に書いたブログ記事です。

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