古代天皇はなぜ殺されたのか

10日の中日新聞の社説によると、聖徳太子は実在しなかったとする説が常識になりつつあるという。聖徳太子だけではなく、いわゆる欠史八代をはじめ記紀に登場する十数人の天皇が後世の創作であるとして抹殺することが常識になっている。これを「学界に殺された」とみて反論するのが八木荘司「古代天皇はなぜ殺されたのか」。最近文庫化されたのが書店に並んでいたので、タイトルが気になって図書館で探し、その親本を借りて読んでみた。Yet another作家による記紀読解。作者はジャーナリスト出身でノンフィクションを得意としているようだ。本作もノンフィクションではあるが、作家ならではの語り口、そしてときには大胆な想像力も展開されていて楽しめる。

要は、記紀に書いてあるのは定説と違って当時の記録や伝承に忠実で、欠史八代も含めた天皇、ヤマトタケルなどの皇族も実在したのだよ、ということを、「クレオパトラの法則」、つまりローマ史の事績が失われたと仮定したとしても「ユリウス・カエサル、エジプト女王クレオパトラを妻とする」という系譜が残っていれば、当時のローマの覇権がエジプトに及んでいたことが分かる、という、おそらくは著者の作った仮説 (念のため、カエサルにはローマに妻カルプルニアがローマにいたし、クレオパトラ7世は共同統治者の弟プトレマイオス14世と結婚していて、2人の関係は実際には愛人) を援用したり、考古学や大陸・半島の史書と照らし合わせたりしながら示す。

たしかに、万世一系を装い、天皇家の先祖の輝かしい系譜を装飾するだけの目的にしては不自然な記述が多いのは謎の一つで、記録や伝承をそのまま記録したからである、という説には割と説得力はある。「クレオパトラの法則」も面白い着眼で、欠史八代の系譜から、ヤマト王権の覇権の広がりの物語も、引用された史料の範囲内ではぴったり収まって面白い (倭の五王とか、うまく説明できない部分も多いけど)。Wikipediaとかを参照しつつ読む、というのがお勧めかな。

この説によっても、じゃどうして記録や伝承が失われちゃったのかな、という疑問は解けない。あと、多くの天皇が抹殺されてしまったのは、戦後皇国史観の聖典記紀を否定することが学界の主流で、日本の発展を少しでも遅く見せる、という偏りを批判しながらも、なんだか「つくる会」とか「自由主義史観」とかと似たような別種の偏りが鼻につく。まぁ産経記者出身だしなぁ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://makoto.minoura.org/d/mt/mt-tb.cgi/310

コメントする

このブログ記事について

このページは、みが2008年2月14日 17:25に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「毒ギョウザ」です。

次のブログ記事は「ピン・ポン・バス」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。